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2011年5月17日 (火)

なぜ人を殺してはいけないのか?  若草書房編集長

     1

 酒鬼薔薇聖斗事件についてのNHKの討論番組で、大江健三郎たち文化人は中学生のこの質問(なぜ人を殺してはいけないのか?)に、誰一人答えられなかった。
 大江は後日、朝日新聞のコラムで答えた。

      私はむしろ、この質問に問題があると思う。まともな子供なら、そういう問いかけを口に
  することを恥じるものだ。 (中略) 人を殺さないということ自体に意味がある。どうしてと
  問うのは、その直観にさからう無意味な行為で、誇りのある人間のすることじゃないと子
  供は思っているだろう。        (誇り、ユーモア、想像力 朝日新聞1997.11.30)

 これは小説家として、一番言ってはならない言葉だ。自分の想像力・思考力の欠如を反省せず、質問者の素朴かつまじめな悩みを圧殺している。大江は誠実に答えなければならない。なぜなら、この疑問は哲学的という以上に、極めて文学的なものであるからだ。

     2

 人が人を殺してもよい世界は、戦争の世界である。
 そこでは、このようなことが行なわれる。

  投書1
   敗戦時、ソ連軍に追われて生命からがら、母子の家族で満州から日本に逃げ帰る途
  中、集団の中の一人の役人が、子供が騒ぐと敵に見つかるからその子供を殺せ、と言っ
  た。その女の子は3歳の可愛いさかりで、母親は刃物を持っても可愛くてとてもできない。
  「おかあさん、いい子にするから痛くしないで」
  あまりに不憫で、知り合いの男がかわりに殺した。
  投書2
   中国戦線でゲリラ掃討戦のとき、村を焼き払い、村人を殺し、赤ん坊を抱えた若い母親
  が一人生き残ったのをつれて行軍した。途中、古参兵たちは女をなぐさみものにし、赤ん
  坊を谷底に投げ落としてしまった。母親は子供の後を追って、谷底に身を投げた。

 いずれも2010年の朝日新聞「語りつぐ戦争」欄からの(記憶による)引用。現在は80歳台の男性のものだったが、なんとしても生きているうちに後世に残したいというお気持ちの強く感じられる文面だった。(書いていても涙があふれる。)
 人が人を殺してもよい世界は、このような「人でなし」の世界である。
 私は、中学生のきみを、人でなしにしたくない。きみを、人でなしの世界に残したくはないのだ。だから、人を殺してはならないのだ。
 大江は、このように答えるべきだったのだ。

     3

 オバマ大統領のビンラディン殺害演説は、とても感動的だ。

    "It was nearly 10 years ago that a bright September day was darkened by the worst   
    attack on the American people in our history.
                                                                               02 May 2011, The Telegraph

  これは、正義にたいする悪の攻撃 this vicious attack to justice であると言い、今宵、愛するものを奪われた家族に言うことが出来る、Justice has been done. と。 そして、こう言う。

  "Let us remember that we can do these things not just because of wealth or power,
     but because of who we are: one nation, under God, indivisible, with liberty and justice
     for all. 

 われわれが富と力があるからというだけでなく、神のもとひとつになり、わけても自由と正義の国であることによって達成できたのだ、ということを忘れてはなりません。(A4で3頁。)

 ビンラディンの「アメリカへの手紙」(2002/11/24 The Observer)を読むと、私たちの意見は大きく揺らぐことになる。(もともとアラビア語でインターネットに現れ、イギリスのイスラム教徒が英語に訳した。A4で8頁。)

  Q1 なぜわれわれは、あなたがたに反対し、攻撃するのか?

  なぜなら、あなたがたがわれわれを攻撃し、攻撃し続けているから。パレスチナは80年
 以上も占領され破壊されている。イスラエル建国は最大の罪だ。アメリカはその最大の支援者だ。パレスチナ人はモーゼの子孫であり、イスラム教徒はすべての預言者を信じている。アブラハム、モーゼ、イエス、そしてムハンマド。イスラム教徒はパレスチナの人々の権利を守る。しかし、パレスチナをイスラムが占領しても、すべての預言者を差別することはしない。 
 あなたがたは、われわれの富と石油を泥棒している。アメリカ軍はわれわれの国を占領している。イラクの150万人以上の子供たちがアメリカの制裁で死んだ。
 あなたがたは、アメリカの一般市民はその攻撃にはかかわっていないのだから、9/11は正当化できないと非難する。
 しかし、アメリカは自由と民主主義の国だ。アメリカ人はその指導者を選ぶことができる。その税金が、われわれを攻撃するものになり、イスラエルを支えている。アメリカ人であれば、われわれに対する罪から無実であることはできない。
 誰であれ、われわれの村や町を破壊するものには、かれらの村や町を破壊する権利がわれわれにはある。そして、Whoever has killed our civilians, then we have the right to kill theirs. 

  思い出してほしい。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の神は同一である。
 オバマは正義の殺人を世界に誇り、ビンラディンは復讐の殺人を宣言する。

           4

 人間は、人でなしでなくなるために、人を殺すのをやめてきた。人間はまだ、人間になる途上にある存在だ。人間は、油断するとすぐ、人間でなくなる。

 青豆は、殺人をするようになってから、性的に奔放になる。(死が生を求めるのだろう。)正義のためであっても、殺人は人間の精神を異常に(ルナティックに)するのだ。

 人を殺してはいけないと、直感的に私たちが思う理由は、人類の長年の戦いの歴史のなかで行なわれた、人でなしの記憶が私たちに呼びかけるからである。

                                                   (了)

        *次回、Qについて (5/20予定)

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